大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

大阪家庭裁判所 平成元年(家)2429号 審判 1990年1月31日

主文

本件申立てを却下する。

理由

1  申立ての趣旨及び実情

(1)  事件本人内藤禎子(以下「禎子」という。)は申立人らの長女であり、事件本人内藤智子(以下「智子」という。)は禎子と事件本人菊地健次(以下「菊地」という。)の非嫡出子として昭和58年10月9日出生し、同月31日菊地による認知がされ、昭和59年3月30日その親権者を父と定められた後、昭和60年5月14日母に親権者が変更されている。

(2)  禎子は、中学3年生のころから家出を繰り返すようになり、昭和54年に高校入学後、同年6月ころに家出して所在不明になっていたところ、昭和59年2月末に突然智子を連れて申立人ら方に戻って来た。

(3)  申立人らは、禎子が非嫡出子を出産したことに非常な衝撃を受けたが、智子に責任はないと考え、また、禎子に立ち直ってもらいたいと思い、以来、智子を監護養育してきている。

(4)  禎子はその後も外泊を繰り返すなど生活態度は落ち着かず、昭和63年6月から肩書住所地で他の男性と同居しており、菊地も正業に就かず、これまで智子の監護養育には関与していないので、実父母の愛情は今後とも期待できない。

(5)  智子はこれまでの経緯から申立人らを実の父母と信じ、明るく素直に育っているし、申立人らは、昭和47年6月以来ステーキハウスを経営し、年商約1億円、平均月収約500万円を得ており、智子のために良好な環境と教育を与えたいと考えている。

(6)  禎子は智子が申立人らの特別養子となることに同意している。

よって、実父母による養育よりも申立人らによる養育が将来にわたりその福祉のため有益であることが確実であるから、智子を申立人らの特別養子とするとの審判を求める。

2  当裁判所の認定した事実

家庭裁判所調査官の調査報告書等の本件記録中の各資料によれば、以下の事実を認めることができる。

(1)  禎子は、高校1年で中退した後、妻と離婚しパチンコ通いの生活をしていた菊地と昭和57年ころ知り合い、昭和57年11月家出して同人と同居するようになったが、同人はパチンコで負けたと言って借金を作り、いわゆるサラ金に追われていたため、禎子がいわゆる水商売で家計を支えていた。

(2)  昭和58年10月9日、禎子は智子を出産し、間もなく智子を夜間託児所に預けて水商売に出るようになり、菊地は同月31日、智子を認知したが、その行状は改まらなかった。

(3)  そこで、禎子は他のマンションに転居したが、菊地に居所をつきとめられたので、その追及を免れるためホテルを転々としていた。

(4)  その後、菊地が夜間保育所に預けるなどして智子を監護するようになり、昭和59年3月30日、智子の親権者も父である菊地と定められたが、智子の発熱の度に禎子に連絡があり、禎子もその監護に当たっていた。

(5)  やがて菊地が智子の監護に疲れて禎子に智子を引き渡し、同年5月、禎子も心身共に疲労して智子とともに申立人ら方に身を寄せたので、申立人らは禎子に静養させるため、智子の面倒をみるようになった。

(6)  ところが、しばらくすると、禎子は、智子の面倒もみず外出を繰り返すようになり、約4か月後には家出し、海外に出掛けたり再び水商売で働いたりしていたが、生活費等を借り入れては申立人らがこれを返済してきた。

(7)  他方、禎子は、菊地が女性と同居していることが分かったので、昭和60年4月、当庁に智子の親権者を菊地から禎子に変更するとの調停を申し立て、同年5月、同旨の調停が成立した。

(8)  昭和61年4月、申立人らは、もう一度やり直そうと禎子を呼び寄せて同居を始めたが、禎子に智子の世話をするように指示したところ、2、3日保育所に預けて放置したため、禎子に智子の養育をさせることを断念した。

(9)  また、禎子の素行も改まらなかったため、申立人らは、昭和62年4月、禎子に現在同人が居住している分譲マンション及び750万円を与えて独立させ、禎子はゴルフ用品販売部門の営業員として稼働していたが、平成元年2月、立ちくらみから昏倒し、以後も健康がすぐれず、同年夏からは休職している。

(10)  申立人らはステーキハウスを経営し、経済的にも十分余裕のある生活で、親類にも智子を申立人らの子として紹介しており、今後十分な教育を受けさせるつもりであり、他方、智子は現在幼稚園に通園中であるが、申立人らを「お父さん」「お母さん」と呼び、禎子を「おねえちゃん」「禎子ちゃん」と呼んでいる。

(11)  申立人らは、智子を某私立小学校に入学させたいと考えているが、同校は審査が厳しいので、戸籍をできるだけきれいな形にしておきたいと思い、また、将来智子が戸籍上のことで負い目がないようにとの考えなどから本件申立てに及んだ。

(12)  禎子は、自分自身の生活を築かなければならず、申立人らの養育に不安もないことから、智子が申立人両名の特別養子となることに同意し、特別養子縁組が成立した場合には何らかの行事の際だけ智子の姉として同人と顔を合わせるつもりであり、菊地も現在アパート管理業をしているが、智子が申立人らの特別養子となることに同意している。

3  当裁判所の判断

そもそも特別養子制度は、恵まれない児童の健全な育成のため、実父母との法律上の親子関係の終了、離縁の原則的禁止、戸籍上の特別の措置によって、実体法上も戸籍上も養父母が唯一の父母であることを明らかにするとともに、養親子関係を実親子関係に比肩しうるような強固で安定したものとすることを目的とするものである。そして、民法817条の7の「父母による養子となる者の監護が著しく困難又は不適当であることその他特別の事情がある場合において、子の利益のため特に必要があると認めるとき」との要件も実方の父母との親子関係を終了させ、新たに実親子関係に比肩しうるような養親子関係を形成することが養子となる者の利益となるという観点から定められているものである。そうすると、本件は申立人らの孫に当たる智子を申立人らの特別養子とすることを求めるものであるから、仮にこれが認められたとしても、禎子と智子は姉妹として法律上の親族関係が存続することになり、反って不自然な関係となるし、現実の生活交渉としても切断されるとは考えられず、前記のような特別養子制度の目的は十分に達せられないことになるのであって、前記2で認定した事情のもとにおいては、特別養子縁組を成立させることはできない。

よって、本件申立ては、その余の点について判断するまでもなく、理由がないから却下することとし、主文のとおり審判する。

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例